ちょっと、今回は手を加えた部分が多いっす。
楽しんでもらえるかどうかは……うーん、どうなんでしょう。
あと、できれば「ひとひらの桜 余談」と「ひとひらの桜 余談②」を読んでからの方がいいかなと思います。ちょっとぴり絡ませました。
いや、まぁ別に読んでなくても全く問題ない上に微妙にこの作品の雰囲気をブチ壊してますから無理しなくてもいいです。
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目が覚めた。
その瞬間、今まで見ていたものの正体に気付く。
あぁなんだ、夢か、って。
同時に思う。
……何で覚めちまったんだ
……何でこっちが現実なんだって。
いっそ、覚めなければ、ずっと夢の中にいさせてくれれば。
そして、自嘲気味に笑う。
夢なんていつか覚めちまうものじゃないか。
それは俺自身が一番よくわかってることじゃないか。
俺の送って来た、あいつとの毎日が夢みたいなものだったんだ。
ふと、視線を上へと運ぶ。
そして自分が見知らぬ天井をみつめていることに気付いた。
ひとひらの桜 第六話
朝、私が部屋のドアを開けると元気そうな声が聞こえてきた。
「藤林!? 何だお前その格好!? つーかここどこだ!?」
元気、もとい困惑した声が私の耳に入る。
「お、落ち着いてくださいっ」
となだめ、昨日の出来事を一つ一つ丁寧に話しました。
するとすぐに納得にため息をついていました。
「そっか、過労って……こんなんで倒れちまうなんて、俺も歳かな」
「岡崎君、きちんと休みはとってますか?」
「とってるさ」
「とれてるなら倒れたりなんかしません」
「相変わらずお節介なのな」
「看護士として当たり前のことです」
「……」
少し、厳しめに。
岡崎君はそんな私の言葉を受け、またも困惑気味のようです。
「はは、そうか、働き過ぎってことか」
淡白な乾いた笑顔でした。
本当の疲れはまだとれていない、と言わんばかりの。
「藤林も言うようになったな。とりあえず世話になった、ありがとう」
そういうとベッドから立ち上がり、着替えを探し始めました。
「い、いえ……って、岡崎くん?」
私の動揺をよそに俺の服はどこだと聞いてきます。
「だ、駄目ですよ、まだ寝てないと……。熱だってまだ少しあるんですから」
同僚の芳野さんという人に言われたことを思い出しました。
『あいつは働き過ぎでしてね。いい機会だからゆっくり休ませてやりたいんです』
私はそのことも岡崎君に話しました。その芳野さんが随分と心配していたことを。
そして私自身からも、もう少し休んでいたらどうですか、と付け加えました。
「気持ちは嬉しいけどな、俺は働かなきゃならないんだよ。……生活がさ、かかってるからさ」
だけど、岡崎君は聞いてくれません。予想はしてましたけど……。
でも私だって看護士です。そんな簡単には引き下がれません。
『また同じことを繰り返しかねんからな』
芳野さんがそう話してくれた通り、これではまた倒れてしまいそうです。熱はひいても、疲れが完全にとれなければ、同じことを繰り返してしまう。そんなことくらい、素人にだってわかります。だから必死でとめました。無茶は駄目です、もう少し休んでいってほしい、そう言って、説得しました。
「駄目なんだよ、働いてないと、俺が俺でなくなるんだ」
だけど岡崎君は全然聞く耳持たず、と言わんばかりでした。
荷物をどんどん整理していってしまいます。熱はひいたといっても少しだけです。顔色とか、まだまだ悪いのに。
お願いです、無茶しないでください、私がいくらそう言って止めても聞いてくれません。構うもんかと言って片付けをやめてくれないんです。
それで私は遂に……。
「いい加減にしてくださいっ!!」
声を、張り上げてしまいました。
「……」
岡崎君も私の方へ顔を向けたっきり硬直していました……。
私も、しまった、とは思ったけど、今更ひくこともできません。
「みんな、みんな岡崎君のこと、心配してるんです…。どうして、どうしてそんなに無茶するんですか?」
「……」
お姉ちゃんは昨日、私のところに来て 何か手伝えることはない? って聞きに来ました。
今までの家に帰るときに見せた頼りないお姉ちゃんとは違う、何かを心に決めた、そんな顔でした。
私が、何もないんだよ、病院に任せてくれればいいんだよって教えても落胆することもなく、
「そっか、じゃあ朋也のこと、椋に任せるわね」
そう安心したように小さく笑って帰っていきました。
そんなお姉ちゃんの後ろ姿を見て私は思ったんです。
私も、頑張らなきゃって。
「岡崎くんにも事情があるのは知ってます。でも、お願いします、せめて、せめて体だけは大切にしてください」
「……」
お姉ちゃんのことは話さなかったけど、岡崎君のことを気にかけてくれている人たちの存在に気付いてほしかった。
せめて、その人たちの為にも、健康に、長生きしてほしかった。
岡崎くんは一つだけ、息をはぁと吐いて
「わかったよ」
そう答えてくれました。
一週間後、岡崎君は無事に退院していきました。
もう顔色などはすっかりよくなってはいたけど、昔の、高校時代の時のような、元気な岡崎君を見ることは最後までありませんでした。
他の看護士さんたちからも訊きましたけど、部屋に行くと何度か誰かを思い出すような顔を見せていたらしいです。お見舞いの人たちが来てくれても、その時は嬉しそうな顔を見せるのだけど、その笑顔にしたって、その人たちとどこか距離を置いてるみたいで、淡白だったって。
他の人から見てもそう映ってしまうくらいなんです。どうしてか知ってる? って私は何度か訊かれたけど
「いえ、私も詳しくは」
なんて呟くだけでした。
とても、私の口から言えることじゃ、なかったから。
でも、それでも私は岡崎くんを応援したい。どこかで頑張ってる人がいる。一番近くで、一番苦しんでる人たちが、それでも頑張っているんだ。
私だけがへこたれるわけにはいかない。応援しかできないのだとしたら、きっとそれは、私が今しなきゃいけないことなんだ。
だから私も、頑張ろうって思えるんだ。
朝。
今日から岡崎が復帰してきた。
少し照れながらも、しばらく休んでいたことを皆に詫びる。
それをみんな拍手で迎える。
ありがとうございます、と社長や俺達同僚に礼を言い、自分の机の所へと向かう。
「あれ?」
自分の席の以前とは違う風景に気付く。
「これ、誰の弁当っすか?」
そこにあったのは赤い布にくるまれた四角いモノ。
周囲の仲間に訊くが誰も答えないから俺が答えた。
「岡崎、お前のだ」
「はい?」
「お前いつも会社のコンビニ弁当だろ。それじゃ体をまた壊す。これを食って少しは栄養とかに気を配れ」
困惑、というか、何故か岡崎は退いている。
「芳野さん、気持ちは嬉しいっすけど、俺にはそういう趣味、ないっすから」
というより勘違いされてしまった。
「馬鹿っ! それは俺が作ったわけでもなければ愛情弁当でもない!」
「じゃあ誰が作ったんすか?」
「うっ……」
本人からは口止されてるからな、教えるわけにはいかない。
俺は、とにかくそれはお前の弁当だ、毒なら入ってない、残したら俺が殺される、などと言いくるめ、つき返された弁当を再度岡崎に返す。
「不審に思うのも無理ないが、だがな岡崎、味は保証する。だからしっかり食え。残さず食え。それが……愛だ」
「……はぁ」
納得はしない様子だったが、もう仕事場へと向かう時間だ。
しぶしぶその弁当を自分の荷物の中に入れた。
そして俺たちは今日も仕事へと向かった。
一週間近く休んだせいか、しばらくは手つきがおぼつかなかったりもしたが、それも直ぐに以前のように戻っていった。
弁当も美味いと何度もボヤいていた。体調に関してはこれからは気を付けると言ってくれた。
だが、時折見せる遠くを見つめるような、まるで昔を懐かしむような表情、そして直後に見せる寂しい目、そんな以前から見せていた岡崎に、変化が来ることはなかった。
そして今更ながら気づいてしまった。
状況は何も変わっていないのだ、ということに。
今回の入院は、ただ単に岡崎に苦悩する時間を与えてしまっただけだったんじゃないか。
だが気づいたからといってそれを後悔しても仕方がない。
俺は信じることをやめようとは思わなかった。
理由は簡単だ。
俺たちがそれをやめたら、誰があいつを祝福してやるんだ?
岡崎朋也が帰ってきた時、そんな岡崎の姿を心から喜ぶやつがいなかったら…どうするんだ?
だから俺はやめない。
岡崎は必ず帰ってくる、そう信じることを。
それしかできないんじゃない、そうすることが重要なのだ。
そして、その大切さを、俺は彼女たちから教えられたのだから。
――時を戻し、岡崎入院から二、三日後の古河パン
夕暮れ時。冷ややかな風が吹くが、少し前と比べればそれほど寒さを感じるわけではない。それだけ、季節が移行してきたのがわかる。
おまけに俺達の旅先に比べれば肌で感じる温度が全然違う。おかげで帰ってきたんだって実感もできた。
つまりだな、久々の我が家だ。
智代や汐にはえらく迷惑かけちまったが、この土産で許してもらうことにしよう。
智代の土産については本人も泣いて喜ぶに違いない。かなり自信がある。
「秋生さん、何をニヤニヤしてるんですか?」
おぉっと。顔に出てしまったらしい。
「早苗、レインボー」
「わけがわからないですよ」
そんなこんなで我が家、古河パンに到着だ。
何日空けたのか、よくわからん。
……。
忘れたな。細かいことは気にしないことにし、扉を開け二人の名を呼ぶ。
「智代~! 今帰ったぞ~汐~! アッキーだぞー」
お、懐かしいな、パンの焼ける匂いだ。
智代のやつ、腕を上げたな。
俺の声に反応したのか奥から智代が顔を出す。
「秋生さんか!?」
「アッキー、さなえさん」
「おう、秋生様だぜ」
パタパタと嬉しそうに寄ってくる汐。
さて感動の再会だな!
「おっそ―――い!」
「あん?」
智代の背後から掛け声。
同時に何かが俺の顔面に向かって奇襲!
俺はそれを紙一重で回避する。
「あ、あぶねぇ……」
危うく俺の最強にカッコいい顔が台無しになるとこだったぜ。
だが。
ゴリっ。
そいつは窓を突き破り、奇妙な効果音とともに、外にいた通行人を狙撃した……。
「一体どこまで行ってたのよ…って……あっ…」
窓を突き破った飛来物
(旧約聖書)を運悪く直撃したのは。
「ジュニアぁぁ!!」
磯貝ジュニアだった。
「ごめんね~磯貝君、生きてる?」
「か、紙一重で」
運悪く(俺に代わりに)神の裁きをうけてしまい、顔が変形している磯貝ジュニア。
そんなジュニアに罰の悪そうに謝罪をする杏先生。
「杏先生、実は通行人に物を当てるのが得意だからな!」
「勝手に変な設定子供に教えないで!」
「あ、喧嘩しないでよ。僕なら大丈夫だからさ」
磯貝ジュニアも立派だな。仲裁してくれるらしい。
にしてもこいつは本当に災難ばっかだ。普段の原因のほとんどは多分俺なんだが。
とそこへ智代が焼きたてのパンを持ってきた。
「杏が済まないことをしたな、これはほんのお詫びだ」
「そ、そんな、僕なら本当に大丈夫ですから」
「コラコラ、子供がそんな遠慮なんかするんじゃない」
いい匂いだ。智代が焼いたパンだな。
これぁ俺が教えた…いや、俺が教えたパンの匂いじゃねぇな。
もしかして
「智代、そのパンよ」
「ああ、よくわかったな。私も早苗さんのようにオリジナルのパンを作ってみようと思ってな、北の国からやって来たお隣さんのジャムを使ってみたんだ。名付けて『甘くないジャムパン』だ。それでだな、これは試作品第一号だ」
早苗の試み見習うのはいいんだが、味まで見習われては敵わん、などと頭をよぎったが、まさか智代に限ってそんなことはねぇだろ。
「ほぅ、じゃまず俺が……」
パシッ
「駄目だ、まずは磯貝君だ」
「何ぃぃぃ!?」
伸ばした手を弾かれちまった。
「秋生さん、私のパンは食べてくれないのに坂上さんのは食べてくれるんですね?」
と非難めいた早苗の声。
「どーしてかしらねぇ? 秋生さん?」
便乗するかのごとく面白そうな顔をする杏先生。
しゃぁねぇ、いつものフォローといくか。
「早苗よ、お前のパンは食べなくてもわかるんだよ」
(超絶破壊的な味なのよね…?)
「そうだ、クジラも二秒で瞬殺…」
俺の耳元で小さくささかれた声。
「あん?」
釣られて出た俺の言葉。
そして涙目の顔も美しい我が妻。
「私のパンは……」
しっしまった! 謀られたのか!?
「捕鯨に使われるんですねぇ――!!?」
「杏っ! 何てことしやがるっ!」
「おっかけなくていいの?」
「くそっ…俺は死なねぇぇぇ――…」
やっぱ、この日常にだけは変化はねぇみたいだ。
しばらくして古河パンへと戻ってくると磯貝ジュニアが青ざめた顔をして出てきた。
「おい、どうした?」
「……」
「何だ? 智代パンもらっておいて何でそんな元気がねぇんだ?」
「ねぇアッキー、智代ねーちゃんって古河パンの新戦力なの?」
「そうですね、あんないいパンが焼けるんですから、私たちよりお上手なのかもしれません」
「呑み込みも早かったしな」
「早苗さん、アレは……パンじゃないよ」
「え?」
「何言ってんだ、おめぇ」
「僕の口の中で……メキョって……」
「磯貝君、何かあったんですか?」
「何で、何で僕ばっかりが……」
意味深な発言を残し、俺の質問に答えることもなく、磯貝ジュニアはフラフラと去っていった。
何かの幻覚でも見たんじゃねぇかってくらい、目が死んでいた。
マジでどうかしたのか?
「どうしたんでしょう? 磯貝君」
「さぁな」
何かヤバいもんに遭遇したのは間違いなさそうだが。
秋生さんと早苗さんがようやく帰ってきた。
あたしは勿論、智代も汐ちゃんも嬉しそうな顔を見せてくれた。
あたしがいるのは夕飯の用意とか汐ちゃんと遊びにとか、要するに智代の手伝いだ。
仕事が早く終わったから来てたのよね。
秋生さんからはお土産がたくさんあった。
智代にはブーツ。
「なんだ、秋生さんにしては普通なんだな」
と受け取ったら
…ズシっ。
「……どうしてブーツがこんなにも重いんだ?」
「へっ聞いて驚け! そいつはな智代の為にと俺が特注して作らせた鉄底ブーツだぁぁぁ!」
蹴りの殺傷力が更に増すとの太鼓判を押されたものらしい。
「……」
いつかこれで闇撃ちしようか、なんてぼやきが聞こえたような気がしたけど、きっとあたしの気のせい。
あたしには極太のラテン語の辞書。
もう初めから辞書としての機能より投げることの機能に特化してるわよね?
あたし、別に好きで投げてるわけじゃないんだけど。
汐ちゃんには両津○吉1/6フィギュア。
「全関節フル可動が売りだ! 小指の第一関節だって動くんだぜ!」
「……」
凄く嫌そうな顔が妙に印象的だった。
場がようやく収集されてから二人に朋也のことを話した。
ただの過労だったってことも、折角だから今は入院中させてもらってるってことも。
驚いた様子だったけど、病気とかじゃないことを知って安心したようだった。
「なら早速明日にでも見舞いに行くか」
あたしや智代も一緒に来ないかって誘ってくれたけど、あたしも智代もそれは断った。
元気になった朋也に会いたい、笑ってる朋也に会いたい。
だから、いつか汐ちゃんと一緒に幼稚園に来る、その時を待ちたい、そう言ったら秋生さん早苗さんも納得してくれた。
その日の夜はあたしと智代、秋生さんに早苗さん、それに汐ちゃんの五人で楽しく夕飯をとった。
「これぞ俺の夢見たハーレムだぜ!」
お酒の入った秋生さんは終始ご機嫌で、次々と缶を空けていった。
一方智代は
「私は…何て恐ろしいモノを…磯貝君に…」
と呟きながら泣き出していた。
酒が入ると泣き出すタイプらしい。
それにしても、智代が作ったパン、あれは智代のせいと言うより一緒に混ぜたジャムのせいだろう。
あたしも一口なめてみたけど、あれをジャムと呼ぶのなら全ての甘党を敵に回すと思う。人類が積み重ねてきたジャムの歴史を冒涜する代物。あれを全部食べた磯貝くんのことが全力で心配ね。
「まぁまぁ、そんなに泣かないでよ、智代」
「……杏は……優しいんだな」
智代の涙は相変わらず止まらない。
そして、あたしの腕を握る。
……待って、智代。
……顔が、近いんだけど……?
「……杏」
「な、何?」
「
好きだ」
「ちょ!?」
「私は本気だ……杏、私の気持ちを……受け取ってくれないか……?」
「ななな! 何言い出すのよ!?」
腕が握られている。に、逃げられない……。
「私のこと、嫌いか……?」
「い、いや、嫌いじゃないけど」
「だったら!! 私と一緒に住もう!!」
「それはあくまで友達としてで!! っていうかなんで住むところからスタートなのよ!!」
「
私にはもう住む家がないんd お前と一緒にいたいんだ!!」
「意味わかんないわよ!!!」
キスを迫る智代。
全力で回避するあたし。
向かいで座る秋生さんは「これが百合か!!」とか言って豪快に爆笑していた。
「笑ってないでこの酔っぱらいを何とかしてよ!!」
「わははっ」
「……zzz」
そして、智代はそのまま倒れ込むように寝てしまった。ちなみに、腕はまだ放してくれていない。
早苗さんはと言うと
「汐もお酒、どうですか? おいしいですよ?」
と中年の親父みたいなことをしている。
「いらない」
あたしはそんな汐ちゃんを保護していた。
ちなみにあたしはというと、全然シラフだった。
酒豪なのよね、実は。
智代と同じくらい飲んでたけどこの程度の量じゃほろ酔いもできないのよ。
夜も八時を越えだすと、あたしは初めて汐ちゃんとお風呂に入った。
寝入ってしまった智代の代わりなんだけど。
それにしてもお風呂場での汐ちゃんは本当に可愛い。
シャンプーするときも必死で目をつむるところが激プリチー。
子供ってなんでこんなに可愛いんだろ?なんて思ってしまう。
つくづく自分は保育士に向いてるんだなって思うのはこんな自分に気付く時だ。
浴槽に入っていると汐ちゃんは
「うしおも智代おねーちゃんみたいにおっきくなる?」
なんて訊いてきた。
一瞬なんのことかわからなかったけど、あたしの胸と自分の胸とを交互にみるもんだから。
「大丈夫よ、汐ちゃんも大人になればあたしみたいにおっきくなるって」
「杏せんせいみたいに?」
「そ。だから安心しなさいって」
「……」
ってなんでそこで
不安そうな顔になるのよ。
いけない、いけない、相手は子供よ。
あたしだってこれからだ。
「あのね汐ちゃん、小さい方が好きって男の人も中にはいるのよ? そしてぺったんこじゃなきゃダメって人も」
とか
「最終手段はズバリ誰かに揉んでもらうこと! 好きな人ならなおよしっ!」
なんて教えたのはここだけの秘密。
お風呂から上がり汐ちゃんの寝息も聞こえだしたころには時計の針は十時を越えていた。
そして自然と四人は集まっていった。
さっきまで寝入ってしまってた智代もいつの間にか起き上がり、酒も抜け、いつもの頼りがいのある顔付きに戻っていた(記憶は飛んでいた)。
「杏、もう、大丈夫そうだな」
「うん。ありがと」
そんな智代の気遣い、嬉しくもあり、照れ臭くもあった。
そしてあたしは、笑ってそれに応えた。
そして、早苗さんが話を始めた。
勿論それは今回の旅行のことだった。
続く。